浮いて沈むブログ

0歳児娘のことやアルフォートのことなど

私と夫のときめきメモリアルを思い出す

 
私の夫を知る人は、彼のことをこう表現する

武士、ジャックバウアー、日本昔話の登場人物

これだけだと何が何だか分からないだろう
私の過去の記事を読んだ方ならご存知だと思うが、夫はとても優しくてちょっとめんどくさい人だ

雪道が怖い私のためにゴリゴリの18本爪のアイゼンを購入したり

初めての育児に不安を感じている私を励ますためにウザ絡みして揺さぶられたり揺さぶられなかったり
 
ね、めんどくさいでしょ

無欲で優しい人だが、頑固でクソが三つはつくほど真面目な石部金吉でもある

しかし、ツイッターやブログではイジリ倒しているものの、未だに結婚出来てラッキーだったと思える自慢のパートナーだ
 
今日はバレンタインだし、恋人気分を思い出そうということで今回は夫との出会いについて書いてみた
 
 
元々、夫は私の学生時代のバイト先によく来ていた常連客だった
 
当時、私は中華惣菜の店で接客のアルバイトをしていた
毎日制服の袖をあんかけで汚しながらも毎日せっせと真面目に働いていた

バイトを始めて約1年が経とうとした頃、夫はちょくちょく店に来るようになった
2、3回目に見る頃にはもう顔を覚えていた
 
場所柄もあり、常連客はマダムかご年配の男性ばかり
そのため、見た目の若かった夫はお客さんの中ではそこそこ目立っていたのだ
 
あと、単純にわりと好みの顔だったからだ
 
とはいえ相手はお客様
「あ、好みの顔だな」ということでインプットしてはいたものの、私だって最初から目をギラつかせていたわけではなかった

気になり始めたのは、夫を認識してから一か月程経ってからだった

いつもは平日の夜にしか来店しない彼が、珍しく日曜の昼間にやってきた
お会計の際、私は思わず「今日はお昼なんですね」と声をかけた

この会話については、私は話しかけても大丈夫そうなお客さんにはタイミングが合えば常連・初見問わず声をかけていたので特別深い意味は無かったのだ
 
夫は少し驚いたように「今日は休みだったので」と言い、少し笑っていつも通り丁寧に頭を下げて帰っていった
 

ただそれだけだ
 

ただそれだけのことで、私はうっかり恋に落ちた
「運命的な出会いを果たした」と妄想日記をつけんばかりの勢いだった私には二人を結ぶ赤い糸が見えた
 

それ以降、私から話しかけたことで夫も覚えてくれたらしく、来店する際にはいつも私のレジに来てくれた
 
「今日は炒飯がありますよ」「この時間までお仕事だったんですか?」
 
などなど、当たり障りのない話だが
来るたびに必ず一つ、お会計と関係のない会話を挟んだ

私の恋の落ち方は完全にオタクが新しい推しを見つけたときのそれだった

勿論薬指に指輪が無いかは確認したし、カウンター越しに身長はどれくらいか、どんな体格かぬかりなくチェックしたし、服装も細かく覚えていた

今思えば完全に追わないタイプのストーカーだが、当時は「好きな人が出来るってなんて素晴らしいんだろう」と有頂天だった
 
幼少期の鵺野鳴介からはじまり、ブラックジャック明智健悟と数々の沼にはまってきた私が初めて人間にはまった瞬間だった
 
 
一応それ以前に彼氏がいたこともあったわけだが、大して好きではなかったのか乙女ゲーの邪魔をされてブチギレして別れたりしてきた 苦い思い出だ
 

そういった「ちょっとした会話」を何度か繰り返していたその頃
私は「いつか渡す絶対渡す死んでも渡す」と邪念に満ちたある手紙をバイト用のビニールバッグに忍ばせていた

自分の連絡先を書いた手紙だ
不幸の手紙ではない、ラブレターだ

しかし勿論陰キャでオタクでコミュ症の私はなかなか勇気が出ず
 
週に一回程度の来店後、渡せなかった不幸の手紙を捨てて、その日の晩にまた新たに不幸の手紙を書いてバッグにしまうという恐ろしい行為を毎週続けていた

変化があったのはしばらく経ってからだった
 

「ちょっとした会話」のネタがいい加減尽きてきて
 
「いくつですか」「彼女いるんですか」「仕事何してるんですか」「どんな人が好みなんですか」「ていうか付き合ってください」
 
等と「粘着質な会話」のネタしかなくなってきた頃、私は前日にテレビで見たパラグライダーのことをぼんやり思い浮かべながらバイトに出ていた

そのせいでやらかしてしまったのだ

いつも通り夫が来店した際、閉店間際で他の客も店長も誰一人店にいなかった時のことだった
 
偶然二人きりになれたので、本来であれば不幸の手紙を渡す絶好のチャンスだったわけだがその勇気はなく
かといって「ちょっとした会話」のネタは無い しかし何か話しかけなければと頭をフル回転させて出てきたのが
 

「空飛んでみたくないですか?」
 

だった
 

やっちまった
この台詞、まるっきり猫型ロボットが登場するあのアニメのオープニングじゃないか
 

ああ、わけわかんないこと聞いてしまった
せっかくこれまで無難に話せていたのに
「この子頭悪いのかな?」って思われる
 

私のめくるめくときめきメモリアルが終わった、そう思った
しかし
 

「いやあ、飛べるもんなら飛んでみたいですね」
 

夫は思いがけず乗ってきた
そして、昔パラグライダーに挑戦したが悪天候で飛べなかったことや、再チャレンジしたいと思っていることを楽しげに話し始めた
 
この時点でもう「好きかも」が「大好き」になってしまった
 
そこで私もパラグライダーに乗ってみたいと話したもんだから
「じゃあ一緒にパラグライダーやりますか」とトントン拍子に話が進んでいった
 
完全に棚ぼただ
 
夫はその場で名前と連絡先の書いてあるメモ書きを渡してくれた
今や旧姓に比べて100億倍ダサいとしか思えない夫の苗字も、平凡な下の名前もとてもかっこよく見えた
 
ここから連絡を取るようになり、パラグライダーに乗るための作戦会議をしよう、と翌週末に出かけることになった
 
ちなみに、ずっと二十代半ばだと思っていた夫が、この時初めて三十代だと分かってひっくり返ってしまった
夫は今でも若々しい童顔をキープしている
 

はじめてのデートはなかなかに奇天烈だった

めかし込んで待ち合わせたところまでは良かったのだが、
せっかく夫が近くに車を停めてきたというのに舞い上がっていた私は「たくさん歩きたいです」という訳の分からないリクエストをした
結果、車を駐車場に預けたまま4時間以上かけて市内を歩き回った
 

後から夫に聞いた話だが、私のことを「いいな」と思った一番の決め手は健脚で体力がある点だったそう
 

ソフトクリームを食べたり、裁判所を見たり、ラムネを飲んだりしながらふらふらと歩いているうちにいつの間にか夜になっていたのだ
 
その間も、夫は回転式遊具について、脳科学について、がん細胞についてなどおよそデートに相応しくない話しかしなかったのだが
私にはどれも未知の領域で夢中になってそれらの話を聞いてしまった
 
どう考えても女受けしない話題ばかりなのに、難しいことを分かりやすく教えてくれる夫の話が歌詞のない音楽のようにとても高尚なものに思えて、余計に好感度が高まったのを覚えている

その日は結局歩いて夕食を食べて少しドライブして別れたわけだが
あまりにも楽しくてすぐに意気投合した私たちは、その後も公園だ海だ崖だと色んなところに出かけた
 

二度目のデートは外を歩いている間に大雨が降ってきて「風立ちぬ」のワンシーンのようにハードすぎる相合傘をしたりもした
 

三度目のデートは大きな公園に行って子供達に混ざって遊んだ
この時くらいから「この人ステキ!」が「コイツ面白いな」くらいに変わっていったような気がする
距離がぐっと縮まったということだろう
 

そしてよく言えば硬派、悪く言えばクソ奥手な夫は想いはあったというもののなかなか告白が出来ず
四回目のデートで夕日と海の見える展望台というこれ以上ない完璧告白専用スポットに行ったにもかかわらず岩に登ったりして呑気に遊んでいた
 
業を煮やした私は「このまま何事もなく帰るのは許さん」と言い、半ば強引に告白させて付き合うこととなったのだ
 
 
付き合い始めてからはとにかく楽しく過ごしてきた
恋人同士になってからは「実例演習・刑事訴訟法」という本を趣味で読んでいる夫を気持ち悪く思うこともあったが、何だかんだで私達はまあまあラブラブだったと思う
 
超絶アウトドアな夫に連れられて道内各所へ旅行したり、登山を始めたり、バスケを見るようにもなった
(登山とバスケは今では夫以上に私の方が熱中している)
 
パラグライダーで空を飛ぶことも実現した
 
 
娘が産まれた今では、恋人というよりチームメイトのような関係になったが、それでも何だかんだ仲良くやっている
 
何かと残念な人ではある
 
模試で全国三位の成績をおさめたにも関わらず国立大はことごとく落ちまくったり
学生時代を過ごした大阪ではやたらゲイのおじさんにばかり絡まれて彼女が一切出来なかったり
久々に出来た彼女(私)と初めて過ごすクリスマスでは「プレゼント」という概念が無く手ぶらでやってきたり
 
少しズレてて、とても運が悪いのだ
 
 
しかし優しい人でもある

酔っぱらって「どうせあなたは私より先に死ぬんだ」と大騒ぎした私を怒ることなく宥めてくれたり
一人暮らし時代、アパートが寒いと言った私のために翌週には電気ストーブを買ってきてくれたり
「その歳まで結婚してないなんて怪しい、不倫じゃないのか」と大層失礼なことを言う私に戸籍謄本を持ってきて見せたり
 

失言は多いし気の使い方も絶妙に下手くそな「惜しいメン」だが、昔も今も、とても大事にされていることは伝わってくるのだ
 
だからこそ、もう少し夫に何かしてあげたいんだけど

彼は週に二回の体育館通いが出来ればそれ以上何も望まないという無欲な人なのだ
出来ればもっとワガママを言ってほしい

私は夫がしてくれていることの半分も返せていないのだ

彼に「何かしてほしいことある?」と聞いても
「毎日楽しく過ごしてほしいな」としか言わないので全然張り合いが無い

そして結局言われた通り毎日楽しく過ごしているだけになってしまう
 

幸せなような、不満なような
いや、幸せなんだけど
 

何とも残念な人ではあるし、特に育児を始めてからはちょくちょくイラつくこともあるけれど
一応は私が若かりし頃にときめきメモリアルで勝ち取った唯一無二のパートナーだ

今日みたいな日くらいはちゃんとチョコレートをあげて目いっぱい可愛がってやろうではないか

そんなわけで、今日はいつもより夫の帰りが待ち遠しい